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名古屋高等裁判所 平成12年(ネ)616号 判決 2000年12月07日

控訴人(原告) 名鉄協商株式会社

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 大道寺徹也

同 光飛田透子

被控訴人(被告) 株式会社郷鉄工所

右代表者代表取締役 B

右訴訟代理人弁護士 今枝孟

同 髙橋美博

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は、控訴人に対し、4億0,994万円及びこれに対する平成9年12月6日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。

4  仮執行宣言

二  被控訴人

主文と同旨

第二当事者の主張

当事者の主張は、次のとおり訂正、付加するほか、原判決「事実及び理由」の「第二 当事者の主張」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決の改訂

1  原判決3頁9行目及び5頁1行目の各「平成9年1月17日」をいずれも「平成9年3月3日ころ」と改める。

2  同4頁6行目の「バケット機器」を「バスケット機器」と改める。

二  控訴人の当審主張

1  本件契約が成立したのは、平成9年3月3日ころであり、ヘイダと控訴人との間の前原、京都及び鹿児島の各新築工事に関する請負契約が成立したのは、同月10日ころである。

2  控訴人が、ヘイダに対し、被控訴人あての発注者を控訴人、受注者を被控訴人とする前原、京都及び鹿児島の各新築工事に関する各注文書を交付したのは、平成9年1月24日であり、控訴人が被控訴人から右各注文書の請書を受領したのは、同日より後のことである。ところが、被控訴人手形7通が振り出された日は、同月21日である。したがって、被控訴人が控訴人から右注文書を受領したことを前提に、被控訴人がヘイダに対して被控訴人手形7通を振出交付したという関係にはない。

3  仮に、本件契約が、ヘイダに金融の利益を供与することを実質的な内容とする契約であって、請負契約の実質を有しておらず、ただ請負契約の法形式を採用したにすぎないものであるとしても、本件契約の各当事者がいずれも右採用された法形式である請負契約によって本件契約の効果を発生させようとの意思を表明している以上、それによることが不合理であるとする特段の事情がない限り、本件契約には請負契約としての効力を認めるべきである。そして、本件について右特段の事情は存在しない。

三  右主張に対する被控訴人の答弁

控訴人の当審主張はいずれも争う。

第三当裁判所の判断

一  請求原因1(二)のうち、控訴人が被控訴人に対し本件各手形を振り出し各支払期日に決済して4億0,994万円を支払った事実、同1(四)のうち、ヘイダが自己破産した事実、及び同1(五)のうち、控訴人が被控訴人に平成9年12月5日配達の内容証明郵便を送付した事実は、当事者間に争いがない。

二  事実関係

右一の争いのない事実、<証拠省略>及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

1  当事者

(一) 控訴人は、昭和46年に設立された各種動産及び工作物のリースに関する事業、スポーツ用品等の販売、土木建築工事の設計監理施工及び請負業等を目的とする資本金3億6,000万円の商社であり、名古屋鉄道株式会社を中心とする企業グループ(名鉄グループ)の一員である。控訴人は、工事の建設施工につき建設業の事業認可を得ており、現実に工事を施工することも可能であるが、実際には工事を施工することは殆どなく、受注した工事を1社ないし複数の施工業者に下請発注して、中間請負人として取引に参加する場合が殆どである。

(二) 被控訴人は、昭和22年に設立され、各種土木建築工事の設計、監理、施工及び請負等を目的とする資本金約6億0,600万円の株式会社である。

2  本件契約に至るまでの経緯

(一) 控訴人とヘイダとの間の取引

控訴人は、昭和63年に名鉄グループ等からスポーツ施設の施工を請け負った際に、名古屋市昭和区<省略>に事務所を置くヘイダにこれを下請けさせたり、ヘイダからスポーツ用施設及びスポーツ用品を仕入れて他に販売したりする取引を開始した。

さらに、控訴人は、自分の売上目標が達成できない場合に、ヘイダが他と請負契約を締結しようとしたり、あるいは既に工事を施工しているスポーツ関連工事について、ヘイダの下請に入ったり、逆にヘイダを下請に入れたりする形で、ヘイダとの間で請負契約締結の形式をとって売上げを計上する方法でのいわゆる介入取引を行ってきた。右介入取引により、控訴人は売上げを計上して売上目標を達成し、1.5ないし2パーセントのマージンを取得でき、他方、ヘイダは控訴人と取引を行うことによる信用を得ることできた。

このような介入取引で、控訴人はこれまでヘイダから少なくとも合計40億円以上の売上げ協力を受けてきた。そして、控訴人は、平成9年1月当時、ヘイダに対し約11億円の債権を有していた。

(二) 被控訴人とヘイダとの間の取引

被控訴人は、昭和62年5月ころ、被控訴人がヘイダにゴルフ場練習場の建設を発注したことからヘイダとの取引を開始した。その後、被控訴人がヘイダに物品を販売したり、同社から建設等を受注するなどの取引を行うようになっていた。被控訴人も、ヘイダとの取引において、控訴人と同様の形態の介入取引を行っており、これまで控訴人よりは少ないものの数10億円の売上協力を受けてきた。

(三) 控訴人、被控訴人及びヘイダ間の契約

控訴人及び被控訴人は、平成8年9月、ヘイダが実際に工事を施工していた日進と春日の各スーパードーム工事につき、請負契約の形式で、ヘイダが控訴人に発注し、控訴人が被控訴人に発注し、さらに被控訴人がヘイダに発注する取引形態での循環取引契約を締結し、合計約10億7,000万円の売上協力を目的とした介入取引を行った。これが控訴人、被控訴人及びヘイダの三者による初めての介入取引であった。

3  本件契約の締結

(一) ヘイダは、平成9年1月ころ、同月下旬の手形決済の資金繰りに窮し、控訴人ないし被控訴人に資金的援助を要請することを計画した。そのため、ヘイダの専務取締役であるC(昭和23年生、以下「C専務」という。)は、同月14日、控訴人のスポーツ事業部長兼委託事業部長であるD(昭和22年生、以下「D部長」という。)に対し、約12億円の融資を依頼した。一方、C専務は、同日、被控訴人の代表取締役であるB及び開発事業部長兼外販部長であるE(昭和7年生、以下「E部長」という。)に対しても、同様に融資を依頼した。

同月16日、ヘイダの代表取締役であるF(昭和22年生、以下「F社長」という。)は、D部長とE部長らにヘイダ本社に来社してもらい、再度、融資の依頼を行った。これに対し、控訴人のD部長は、融資することに難色を示したが、被控訴人のE部長は、以前行った日進や春日の各スーパードーム工事の形態であれば、協力してもよい旨回答した。

そのため、F社長が、同日、塚本商事機械株式会社(以下「塚本商事」という。)の協力を得られる旨をD部長に伝えたところ、D部長は、ヘイダへの金融に協力していくことにした。

(二) 控訴人には、その当時、ヘイダが倒産するとヘイダに対する前記約11億円の債権の回収が困難となることから、ヘイダに金融を受けさせる必要があった。

(三) ヘイダ及び控訴人は、平成9年1月17日、ヘイダが福岡県前原市所在の岩永組から受注していた前原の新築工事、九鉄工業から受注していた鹿児島の新築工事及び大阪市<以下省略>所在のワキタから受注していた京都の新築工事の三工事について、とりあえずヘイダから控訴人へ合計金額12億0,201万円の工事を発注する形をとることとし、控訴人から被控訴人へ右三工事につき合計金額11億9,686万円とする各注文書を作成した。

なお、控訴人から被控訴人への右各注文書には、支払方法について、振出日を同年1月末日、支払期日を同年5月ないし同年7月の各末日とする約束手形によるものとする旨記載されていた。

(四) 被控訴人は、F社長から、控訴人から被控訴人あての平成9年1月17日付け右各注文書を渡されたので、同日付けで被控訴人から控訴人あての各注文請書を作成し、同月20日、ヘイダを介して控訴人に交付した。なお、被控訴人から控訴人あての右各注文請書にも、支払方法について、振出日を同年1月末日、支払期日を同年5月ないし同年7月の各末日とする約束手形によるものとする旨記載されていた。

他方、被控訴人は、同年1月20日、ヘイダへの各注文書を作成してヘイダに交付し、ヘイダは、同日、被控訴人への各注文請書を作成して被控訴人に交付した。なお、被控訴人からヘイダへの右各注文書及びヘイダから被控訴人への各注文請書には、特に支払方法についての記載はない。

そして、ヘイダと控訴人間、控訴人と被控訴人間、被控訴人とヘイダ間には、いずれも請負契約書は作成されていない。被控訴人は、控訴人から被控訴人あての同月17日付け各注文書を信頼して、同月21日、ヘイダに対し、合計金額11億9,171万円の被控訴人手形7通を振出交付した。

ヘイダは、被控訴人手形7通を割り引いて、同年1月下旬の手形決済資金として使用した。

(五) ところが、控訴人は、平成9年1月23日ころ、社内で検討した結果、塚本商事が取引に参入する形態では取引に応じられないとして、ヘイダに対し、他の商社の介入を要請した。そして、既にヘイダに対し被控訴人手形7通を振り出している被控訴人が、同月29日ころ、被控訴人あてに作成した右各注文書に従って約束手形(本件各手形)を振出交付するよう要求したのに対し、控訴人は、同月末日になっても、右手形を振出交付しなかった。

そのため、F社長や被控訴人のE部長が、控訴人のD部長らと折衝した結果、控訴人は、同年3月3日、右各注文書記載のとおり約束手形を振り出すことを決定し、同月10日及び同月20日に、支払期日を同年5月ないし同年7月の各末日とする合計金額11億9,686万円の約束手形21通(本件各手形)を被控訴人に振出交付し、各支払期日に決済した。

被控訴人は、控訴人が決済した本件各手形金で、本件循環取引に基づき、ヘイダに対し融資目的で振り出していた被控訴人手形7通を、支払期日に決済した。

(六) 控訴人及び被控訴人が介入することになった請負契約の対象物件は、被控訴人が関与することなく、控訴人とヘイダの各担当者間で決定したものであった。控訴人は、本件各手形を振り出す前に、ヘイダに右請負工事等に関する受注計画書を作成させており、被控訴人に対しても、前原、京都及び鹿児島の各新築工事の請求書の記載方法について指示している。

(七) ヘイダは、平成9年3月ころ、前原、鹿児島及び京都の各新築工事に関するヘイダから控訴人あての契約金額合計12億0,201万円の各注文書を作成して、これを控訴人に交付し、本件循環取引による金融の決済方法として、同月20日、控訴人に対し、支払期日を同年5月ないし同年7月末日とする合計金額12億0,201万円の約束手形26通を振出交付した。

4  本件契約締結後の状況

(一) その後、ヘイダは、京都及び鹿児島の各新築工事を完成したが、前原の新築工事には着工しなかった。控訴人は、平成9年8月31日、ヘイダとの間で、同年5月12日付け名鉄千住ゴルフプラザ塗装工事請負契約に基づき、同年8月31日を支払期限とするヘイダの控訴人に対する右工事代金相当の1,260万円の債権と、未だ着工していない前原の新築工事に関する控訴人のヘイダに対する債権とを対当額で相殺する旨の契約を締結した。

(二) 控訴人は、ヘイダが本件循環取引に関して振り出した各約束手形の支払期日を平成9年9月30日まで猶予することを認め、その利息として435万2,477円の手形を徴収し、同年10月7日、ヘイダに対し、既に提出させていた同年8月4日付け資金計画書を変更して新たな資金計画書を提出するように求め、金融機関と同様に担保の積み増しを検討している。

(三) 控訴人は、平成9年9月になっても、ヘイダが右工事に着工する見込みがなかったため、同月18日、被控訴人に対し、本件契約を解除する意思表示をして請負代金の返還を求めたが、被控訴人はこれに応じなかった。

(四) ヘイダは、その後も前原の新築工事に着工することなく、平成9年12月1日、事実上倒産し自己破産を申し立てた。ヘイダは岩永組から請け負っていた前原の新築工事を施工していないため、岩永組から右請負代金の支払を受けることができず、そのため控訴人もヘイダから振出交付を受けていた前記手形金の支払を受けることができないままである。

そして、控訴人は、ヘイダの右倒産により、被控訴人が本件契約を履行することは不可能な状況になったとして、被控訴人に対し、同年12月5日配達の内容証明郵便で、民法641条に基づき本件契約を解除する旨の意思表示をした。

三  前記二の認定事実によれば、本件契約が成立したのは平成9年1月20日であり、ヘイダと控訴人との間の前原、京都及び鹿児島の各新築工事に関する請負契約が成立したのは同日ころであることが認められる。

また、右認定事実によれば、控訴人が、ヘイダのF社長を介して、被控訴人に対し、発注者を控訴人、受注者を被控訴人とする前原、京都及び鹿児島の各新築工事に関する各注文書を交付したのは、平成9年1月17日ないし同月20日であり、控訴人が被控訴人から右各注文書の請書を受領したのは、同月20日であって、これを前提に、同月21日、被控訴人がヘイダに対し被控訴人手形7通を振り出したことが認められる。

四  本件契約の性質について

1  前記二の認定事実によれば、控訴人と被控訴人とは、平成9年1月20日、本件契約を、形式的には、前原の新築工事につき、控訴人を発注者、被控訴人を受注者、請負代金総額を4億0,994万円(消費税込み)とする請負契約として締結したものであるが、その経緯は、控訴人と被控訴人とがヘイダから融資の依頼を受け、実質的に同社に金融を供与する目的のため、ヘイダから控訴人へ、控訴人から被控訴人へ、被控訴人からヘイダへとそれぞれ約束手形を振り出し、ヘイダが、被控訴人手形7通を割り引いて融資を受け、その後、前原、鹿児島、京都の各新築工事を施工して、その請負代金をもってヘイダから控訴人に振り出された約束手形の決済をすることで前記金融を決済することを合意した、いわゆる循環取引の一環であると認められる。

2  控訴人は、請求原因1(一)及び(二)において、控訴人が、被控訴人との間で前原の新築工事を実際に施工するという内容の実質的な請負契約を締結し、右請負契約に基づいて、被控訴人に対し右工事代金を前払いしたものである旨主張する。

しかしながら、前記二の認定事実によれば、控訴人と被控訴人とが、前原の新築工事について自ら作業等を行うことは当初から一切予定されておらず、実際の各工事の施工は専らヘイダが行うものとされていたのであり、右1に判示したとおり、控訴人、被控訴人及びヘイダの三者間では、単に注文書、注文請書を取り交わすことにより、それぞれ各工事代金に相当する約束手形を振出し交付して、ヘイダに金融を供与することが目的とされていたに過ぎないものであるから、控訴人が、被控訴人との間で、前原の新築工事を実際に施工するという内容の実質的な請負契約を締結し、右請負契約に基づいて、被控訴人に対し右工事代金を前払いしたものである旨の控訴人の主張を認めることはできない。

3  控訴人は、本件契約は、春日、日進の各スーパードーム工事と同様に、控訴人及び被控訴人にとって売上実績を計上することを目的に、帳合いによって行った介入取引であり、単なる金融目的の契約ではない旨主張する。

しかしながら、<証拠省略>によれば、本件契約は、控訴人及び被控訴人の方からヘイダに対し介入取引を依頼した春日、日進の各スーパードーム工事の場合とは異なり、ヘイダの資金手当が切迫した状況下で、同社から控訴人及び被控訴人に対して資金援助を依頼したことによって成立した循環取引の一環として、控訴人と被控訴人との間で締結されたものであることが認められる。

そして、前記二の認定事実によれば、控訴人が本件循環取引に加わったのは、資金繰りに窮したヘイダが倒産することにより、その当時控訴人がヘイダに対して有していた約11億円の債権の回収が困難になることを回避するために、ヘイダを資金的に援助することが目的であり、そうであればこそ、資金繰りに窮しているヘイダ振出しの約束手形を、被控訴人ではなく、控訴人が受取人として取得しているものであることが認められ、控訴人が被控訴人との間で締結した本件契約は、売上実績を計上することを目的とし、帳合いによって行った控訴人の主張する単なる介入取引であると認めることはできない。

したがって、控訴人の右主張は採用できない。

五  民法641条に基づく解除の可否について

1  控訴人は、原審及び当審(当審主張3)において、本件契約が循環取引であっても、当事者が法律構成として請負契約を選択した以上、その法的形式を尊重して法的効力の有無を判断すべきであり、したがって、控訴人は、請負契約である本件契約を、注文者として民法641条に基づいて解除できる旨主張する。

2  そこで、検討するに、前記のとおり、(1)本件循環取引に介入した控訴人及び被控訴人は、前原の新築工事に関する作業等を一切予定しておらず、ヘイダに融資する目的で、約束手形を交付する原因として、ヘイダ、控訴人及び被控訴人の三者間において循環した請負契約の形式を取ることにしたものであり、右三者間では、当初から、ヘイダが岩永組から請け負った前原の新築工事をヘイダのみが自ら施工し、その請負工事代金をもって、ヘイダが控訴人に振り出した約束手形を満期日に決済して、控訴人及び被控訴人のヘイダに対する金融の決済を完結することを予定したものであり、この間の事情は、右三者とも了知していた。(2)被控訴人は、控訴人から被控訴人あての平成9年1月17日付け注文書(<証拠省略>)の内容を信頼して、右注文書に従い控訴人から本件各手形が振り出されて決済されることを前提として、ヘイダに金融の利益を供与する目的で、同月21日に合計金額11億9,171万円の被控訴人手形7通を振出交付している。(3)また、もしヘイダが右手形の決済ができない場合には、それによって生じる損失を、同社振出手形の受取人である控訴人に代わって、被控訴人が負担する旨の合意が右三者間でされたことを窺わせる証拠はない。(4)そして、本件契約の目的がヘイダに金融の利益を供与することであったことからすれば、控訴人から被控訴人へ、被控訴人からヘイダへそれぞれ振り出された各約束手形がいずれも割引、決済されたことにより、ヘイダに対し金融が供与されているのであるから、本件契約の目的は既に達成されているということができる。

これによれば、本件循環取引において、ヘイダが倒産することによって生じる危険は、結果として本件契約を締結した控訴人において負担することを受認していたものというべきであって、ヘイダが、前原の新築工事を施工したか否かは、ヘイダが予定どおり控訴人及び被控訴人から受けた金融の供与に対しその決済を実行しうるか否かにかかるものであったに過ぎず、請負契約の内容である前原の新築工事の施工の有無が本件契約の本質的な要素になるということはできないというべきである。

したがって、たとえ、被控訴人が控訴人との間で、ヘイダに金融を供与するため、本件契約に関して、前原の新築工事に関する請負契約という法形式を採用することが合意されたとしても、本件契約を締結し、ヘイダが倒産することによって生じる危険を負担することを受認していたものというべき控訴人には、本件契約に基づいて、既にヘイダに対する金融の供与についての決済を実行した被控訴人に対して、本件契約の形式上の目的とされた工事が施工されないことを理由として民法641条による契約解除権が生じることはないと解するのが相当である。

そして、右の解釈は、本件契約の当事者である控訴人及び被控訴人の意思に合致するものというべきであるから、控訴人の右主張は採用できない。

3  控訴人は、本件契約は、被控訴人が主導して行ったものであり、控訴人がヘイダに金融を供与する目的で行ったものではないところ、被控訴人がヘイダとの間で、控訴人の意図した介入取引と異なる金融を供与する意図を有して合意をしたものであり、その事情を知らない控訴人には対抗できない旨主張する。

しかしながら、前記二の認定事実によれば、控訴人はヘイダの資金関係に積極的、主体的に関わっており、本件循環取引はむしろ控訴人が主導的にヘイダに金融を供与する意図で成立させたものと評価しうるものであって、被控訴人は、ヘイダ及び控訴人の要請により本件循環取引に介入して、本件契約を締結したものであることが認められるから、控訴人の右主張は採用できない。

4  以上によれば、控訴人は、本件契約が通常の請負契約であることを前提として、民法641条に基づいて本件契約を解除することはできないものというべきである。

5  したがって、控訴人の主位的請求(請求原因1)は理由がない。

六  不当利得の成否について

不当利得の成否についての認定、判断は、原判決44頁2行目冒頭から47頁8行目末尾までと同一であるから、これを引用する。

七  以上によれば、控訴人の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないから、これを棄却すべきである。

第四結論

よって、原判決は相当であって、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法67条1項本文、61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小川克介 裁判官 下澤悦夫 玉田勝也)

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